『帰国子女100人の昨日・今日・明日 バイリンガル・ジャパニーズ』佐藤真知子

成人してからアメリカのピッツバーグで6年住み、その後オーストラリアのメルボルンに移り住んだ著者。
子供3人をメルボルンで育てた経験から、海外で育つ日本人のその後を追って検証したという一冊です。
出版されたのは1999年。本書後半ではは「女性の帰国子女が社会で直面する問題」なども書かれていますが、
2015年現在、時代は変わり、社会における記述は今の私たちには古いと感じらる表記もあるので、主に前半部分を見てみます。

日系企業の海外進出とともに海外で生まれ育つ日本人が増え、その人たちが帰国し、企業の重要なポジションについているのがちょうど現代ではないでしょうか。
その人たちの帰国後を見る事で、これから日本の子供をいつごろ海外留学させるのが最も効果的なのか、
海外で育つ時はどういうことに気をつけなければならないのか、などの重要な資料になるでしょう。

以下、引用をしながら、★印で私の感想をいれていきます。

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33 (海外の)いいところを見つけて、明るく暮らす。まあ大丈夫、と気楽に日々を過ごすのがコツですね。
私は18歳でスペインに行ってよかったと思います。それほど小さい子供でもなく、心に余裕がある年齢ですから。

★私も19歳でイギリスに行きましたが、ある程度の覚悟もあったし、忍耐力も兼ね備えた年齢でした。将来を考える時期でもあったので、人生の分岐点としてよい経験になったと思います。

36 (日本の)学校で習った英語は、現地へ行ってみると、まず全く役に立たない。これはほとんど帰国生の間のコンセンサスである。副詞句だの、関係代名詞だのと、いろいろ詰め込まれても、そんなことでは使える英語を習得する事はできない。細かい規則に気を取られて、実際の行きた英語のトレーニングの機会が極めて限られたものになっている。大学の英語の入学試験を作る先生方は、日本人の英語下手を助長していると思う。

★実際のところ、文法の勉強は役に立ったと言えます。特に大人になってからだと、文法を知らなければ時間がかかって仕方ない。日本の学校でならった英語が使えない、というのは事実だけど、もしきちんとスピーキング/リスニング/考える力/意見を言う事などを一緒に学んでいれば、もっと実用的な英語力になったと思います。
けれども、「品詞」は別に習わなくてもいいかなーと個人的には考えますが、これも「知っていると役に立つ」という人もいますしね。

37 単に言語能力だけでなくて、表現する内容を論理的に組み立てる能力が必要だ。
そのためには、語学以外の分析力や討論の実力を養成することが大切なのだが、日本の学校はこういうことに焦点を当てた教育をおろそかにしている。

★そうです、コレが一番大切だと思います。英語力よりこれが足りなさすぎるのが問題です。グローバルに働くというときに、「英語力が・・・」と思ってしまいがちですが、英語力に隠れてあまり重要視されていないその他の問題の方が重大です。自分の意見を持つという事は自分で考える事。人の意見と違って当たり前だという事。それを受け入れるキャパシティ。
  

45 (海外の学校では)教科書はなく、「オセロ」「マクベス」「モッキンバードのいる町」などの小説が使われた。映画やビデオを鑑賞し、それについて討論することもあった。

★幼児期には絵本を読む環境をぜひ作っていただきたいと思いますし、年齢に応じて小説なども。大人の方で本は読まないという人は、Facebookなどで外国の記事を読んでみたりしましょう。

46 本当にバイリンガルになれるか
当然のことながら、小さいときほど習得が早い。

★よく「何歳ぐらいから英語を習わせればよいでしょうか」という質問を受けますが、幼ければ幼い程、吸収は早いです。個人的には公文のようなドリル形式ではなく、きちんとした英語が話せる先生の元で歌ったり遊んだりするクラスが最もよいのではないでしょうか。幼い頃に必要なのは「きっかけ」だと思います。

47 この年齢の子どもの新しい環境への順応力には、目を見張るものがある。
小さい子は、覚えるのも早く、忘れるのも早いのである。
大きくなった子どもたちについてはどうだろうか。
10代の半ば担ってから初めて英語にさらされた場合、その習得にはもっとずっと時間がかかる。
しかも、人によって程度に差はあるが、ある種の日本人訛りが残る。けれども、いったん体得した英語を、そう簡単に忘れるということはない。

だとすると、問題は土地っ子のように英語を話し、しかもいつまでも忘れないでいられる時期は何歳ごろか。
経験や、私が面談した限りの帰国生について考えると、おそらく小学生の高学年から中学生の半ばあたりという気がする。
それでも、二つの言葉を同じ程度に使えるという意味で、完全なバイリンガルである人は、実に少ない。

★確かに、アメリカにいる知人の子どもは、アメリカでは日本語を忘れてしまうのに、日本に数ヶ月いる間に今度は英語を忘れてしまうと言います。いずれにしても、アメリカにいるときは日本語を忘れないように、日本にいるときは英語を忘れないように、それも子どもがストレスを感じる事なくそういう環境を作ってあげる事が重要なのでしょう。

48 海外で学んだ第二言語は、自分の心や感情と隔たりがあるから、日本語で話しづらい話題でも気楽に出来るという。

★これは私もあります!怒る時は英語で怒る方がすんなり言葉がでてくるし、愚痴を言いたい時は日本語ではなく英語で言うようにしています。なぜなら、その方が後から罪悪感を感じないから!日本語だとつい、「あんなこと言ってしまった/思ってしまった」と後から後悔するのですが、英語だとそれがない。でもそれはよい事なのか悪い事なのか・・・。

49 帰国生は自分の意志で海外へ行ったのではない分だけ、本気で外国語を学びに出かけた自発的な留学生に比べて、言語習得の動機が弱い。
帰国生はある日突然、親の都合で外国生活を始められなければならなかった子供たちだ。それだけに、本気で外国語を学ぼうという動機は薄い。
その動機がどれだけ強かったかによって、帰国生の長期的な外国語修得度が決まる。
帰国生なら誰でも外国語はペラペラ、というのは虚像に過ぎない。

62 子どもの性質も、外国の環境に柔軟に入り込んでいけるかどうかを決める大きな要因になる。
「トイレに行きたい」という英語が話せないばかりに、長時間我慢をする日本の子どもがいる。
こういう表現や「気分が悪い」といった基本的な語彙は、親が教えて子どもを学校に送り出すべきだろう。

★初心者が留学する時は、いわゆる「サバイバル(生き抜くための)イングリッシュ」はしっかり予習しておきましょう。

153 帰国生は、自己主張が強く、何事も押し通し、外国語が堪能なうえ、派手で行動派だと決めつけに絶えずさらされてきた。

★こういうイメージがあるそうですが、ある帰国子女の方は、これは正反対だと仰っていました。意見を「強く」いうのではなく、「うまく」相手に伝えることは上手だと。相手の意見を受け入れず、自分の意見ばかりを言うのが外国っぽいと勘違いして、変に強気になってしまう人もいるのだとか。外国での一番のマナーは「相手を尊重する」こと。違った意見でも「そういう意見もありますね、なるほど。私の意見はと言いますと・・・」というように、相手も受け入れつつ、自分の意見もきちんと言う。しかも根拠をつけて、相手にわかりやすく論理的に。
この辺りが日本人の苦手とするところであり、身につけて損はないスキルではないでしょうか。時々「アクティブリスニング」とか「コーチング」とかのスキルに集約される事がありますが、そうではなく、「相手を受け入れる」という基本スタンスが重要です。

160 英語はブラッシュアップが必要
英語圏の現地校などに通って、日常生活では英語を普通に使えるようになっても、職場ではそうはいかない。
ビジネス英語というものは、会話英語とは同じでないからである。
職場で書いた英文のビジネスレターを上司に差し出したところ、専門家が目を通した後、真っ赤に添削されて戻ってきたという話をした帰国生もいた。

★そう、日常会話に問題がないぐらい英語力があっても、仕事では足りません。しかしこれは経験してこそ身につくものだとも言えます。もちろん、ビジネス英語を学んでおく事にこした事はない。

162 中でも書くのが一番難しい。友だちに手紙を書くのとは訳が違う。契約に関する事だから、すごく気を使う。

★日本人はよく「スピーキングとリスニングを!」と言いますが、ライティングやリーディングもとても重要なスキルであることも忘れないようにしたいですね。スピーキングにもリスニングにも必要な「語彙力」は、リーディングから得られる事がおおいです。

168 語学ができるから、世界のどの国へでも行ける。
もちろん苦労はあるが、乗り切っていける。

★海外留学経験で最も重要なのがこれでしょう。度胸、危機管理能力、人に助けを求めること、人を助けること、苦労を乗り切る事、その時に得る自分ならではのストレスマネジメント方法。その土地でできた友人。英語があるからこそ得られた事。英語ができることで世界は広がるということには間違いないと思います。